
はじめに
現代では、エステサロンは「美しさ」を叶えるための身近な存在となりました。しかし、そもそも「美しくありたい」と願う心は、今に始まったことではありません。
遥か古代の時代、人々はどのようにして美を追求していたのでしょうか? そしてその知恵は、どのように現代のエステの技術や考え方に影響を与えてきたのでしょうか?
このシリーズ第1回では、エステのルーツを探るべく、古代エジプト、ギリシャ、ローマ時代の美容法やその背景に迫ります。
古代エジプト:美の女王クレオパトラと究極の美容法
「美」と聞いて多くの人が思い浮かべる歴史上の人物――それがクレオパトラです。
古代エジプトの女王である彼女は、美貌と知性で国を動かした伝説的人物。実際、クレオパトラが行っていたとされる美容法の多くは、現代にも通じるものがあります。
ミルク風呂の由来と効果
彼女の代名詞とも言えるのが「ミルク風呂」。
当時のエジプトでは、ロバの乳や蜂蜜、香油などを浴槽に入れて入浴することが、富裕層の間で贅沢な美容法とされていました。
ミルクには天然の乳酸が含まれており、古い角質をやさしく取り除くピーリング作用があります。また、ミルクや蜂蜜は保湿効果も高く、乾燥しやすいエジプトの気候にぴったりだったのでしょう。
香油・香料文化の発展
さらにエジプト文明は、香油や香料の製造技術でも非常に発展していました。
乳香(フランキンセンス)や没薬(ミルラ)といった植物性の香料は、肌のお手入れやリラクゼーションのためだけでなく、宗教儀式や医療にも使われていたと言われています。
エジプトの墓からは、当時使われていた香油壺や化粧道具が発掘されており、美と健康への関心の高さが伺えます。
現代に続く美容の知恵
また、当時すでに「日焼け止め」として植物由来のクリームを塗る習慣や、粘土や泥を顔に塗る「パック」のようなケアも行われていました。
こうした美容習慣は、現代のエステでも定番のケア方法として受け継がれています。
古代ギリシャ・ローマ:美と健康は一体
時代が進むと、美の文化はギリシャやローマへと引き継がれていきます。
ここでも「美しくあること」は、社会的地位や精神の健全さと結びついていました。
ギリシャ:オリーブオイルと美の哲学
古代ギリシャでは、「カロカガティア(肉体と精神の調和)」という考え方が根付き、肉体美を磨くことは精神修養と一体とされていました。
アスリートや貴族たちは、運動の後にオリーブオイルで全身をマッサージし、肌をしなやかに保つことを習慣としていました。
オリーブオイルは保湿効果だけでなく、皮膚を柔らかくし、太陽の光や乾燥から肌を守る役割も果たしていました。
この時代から「オイルマッサージ」が生まれ、現在のボディケアメニューの原型となっています。
ローマ:公衆浴場とリラクゼーション文化
さらにローマ時代に入ると、美容と健康はますます大衆化します。
ローマ市内には数多くの「テルマエ(公衆浴場)」が建設され、人々はそこで身体を清め、リラックスし、社交の場としても楽しみました。
テルマエには、温冷浴だけでなく、スチームバスやサウナ、マッサージ、スクラブ(垢すり)など、まるで現代のスパのようなサービスが用意されていました。
また、浴場内には専属のマッサージ師や美容師が常駐し、利用者の肌や髪のケアを行っていたという記録も残っています。
美容は「癒し」と「健康」の両立へ
古代ローマ人は「Mens sana in corpore sano(健全なる精神は健全なる身体に宿る)」という格言を重んじていました。
この発想は、エステティックが単なる美の追求だけでなく、「心身のバランスを整える場」として発展する土台となりました。
古代の美容法が現代エステに与えた影響
このように、エジプト・ギリシャ・ローマ時代の人々が育んだ「美の知恵」は、現代エステの技術や考え方に多大な影響を与えています。
ミルク風呂やハチミツ・オイルの利用、マッサージやスチーム、リラクゼーションと美容の融合…。
今では当たり前となった様々なメニューや施術は、数千年にわたる歴史の積み重ねなのです。
まとめ
エステの歴史は、単なる「美容のためのサービス」にとどまりません。
それは人類が「美しく、健やかに、心豊かに生きたい」と願ってきた証そのものです。
現代のエステサロンで受けるケアやサービスにも、クレオパトラや古代の貴婦人たちの想いが息づいている――。
そんな壮大な時間の流れを感じながら、自分自身の美しさと向き合ってみるのも素敵ではないでしょうか。
次回は「中世ヨーロッパの美容法とエステのルーツ」に迫ります。どうぞご期待ください。